
ありえない角度で羽根を休めています。
どうしたのかなとよく見たら、右側の前羽根が折れて皮一枚でつながっていました。
脚も数本折れ、触角も傷ついています。
車や自転車と接触したのだと思われます。
飛び立とうとしても、地面に何度もぶつかるジャノメチョウ。
皮一枚でつながっている羽根が、飛び立とうとするたびに自身の体を叩きつけます。
そのうちアリも寄り付き、かじられてもがくジャノメチョウは、ついに決死の行動に出ます。

飛び立とうとしているのではありません。皮一枚でつながっている自らの羽を、切り落とそうとしています。
自身の体を叩きつける邪魔者を無くし、なんとか次の活路を見出そうとする健気で必死な姿に、昼の時間が過ぎていくのさえ忘れていました。

ついに羽根を切り落としました。
地面にある自分自身の羽根を、じっと見るジャノメチョウ。
何を思い、これから何を考えるのでしょうか。
空はもう飛べません。脚も3本しか動きません。
しばし休むジャノメチョウに、再びアリが襲いかかります。
かじられるたびにもがいて、なんとか振り払おうとしますが、アリは執拗に攻めてきます。
自然界の掟なので、二者の間に入ってはいけないのはわかっています。
しかし、自らの羽根を切り落として明日をあきらめないこのジャノメチョウに、ぼくは救済心を抑えきれませんでした。

植木鉢の上に避難させました。
見ての通り、消えゆく命の姿です。
延命措置になりますが、かじられる痛みからは解放されたと思います。
恐らく、明日には★になっていると思います。
文明のためにこのような姿になったジャノメチョウ、その文明を作ったヒトがようやくできることは、せいぜい延命措置ぐらいです。
どんなに理屈を並べても、このチョウをこんな姿にしたのは文明であることは、揺るぎない事実なのです。
延命措置は、一文明人からのせめてもの謝罪です。