
まさに今、羽化したてのオスのイエコオロギです。
比較的閑静なポットの上で、体が硬くなるのを待っているようです。

コオロギやスズムシは、羽化したての状態では前羽根の下にうしろ羽根があります。
テントウムシやカブトムシのように、飛ぶために必要なうしろ羽根は残りますが、地上生活するコオロギにとっては無用なものになります。
したがって、このうしろ羽根はやがて自然に抜け落ちます。
真っ白くて縮まっているように見えるのが、うしろ羽根です。
まだ縮まっていますが、これがやがて伸びて羽根になり、そして抜け落ちます。

体も柔らかく、力も出ない。最も外敵に狙われやすい瞬間です。
共食いの性質を持つコオロギなので、こうやって仲間から離れたところで硬くなるのを待ちます。

そこへ割って入るメスのイエコオロギ。こちらも羽化したてのようです。
先ほどのオスは、体格のでかいメスに追い出されて、下の木炭の上に場所を変えました。
このメスを見ると、ありえないくらい長い白い羽根が見えます。
これが、伸びたうしろ羽根です。
飛ぶための羽根なので、これくらい長くても普通です。
イナゴの姿を思い出すとわかりやすいのですが、体長と羽根長の比率はこんなもんです。
しかしこの羽根はコオロギには不必要。やがて抜け落ちます。
伸びきったうしろ羽根がついている成体を見ることができるのは、羽化したての短い時間のみです。

こぼれた水で湿った土のところに、メスの成虫だけが集まっています。
産卵をしている瞬間です。
長い産卵管を地面に刺し、体を伸縮させながら産んでいます。
正直こういった姿を見ると、かわいそうな気持ちになります。
えさとして買ったイエコオロギも、羽化したり産卵したり、ちゃんと自分たちのルールで生きています。
今書いているのは「オオカマキリ」のカテゴリーですが、通常は「オオカマキリにえさをあげました」という書き方をするケースが多いと思います。
しかし、その「えさ」は「えさ」なりに生きています。
工場で作られたビタミン剤の錠剤ではないのです。
そんなわけで、イエコオロギはイエコオロギとして、ちゃんと紹介したいと思います。
他の生き物と同じように生長して次の世代のために必死に産卵する、そんなイエコオロギでも、環境によっては「活餌」になってしまうのです。
マイマイカブリを飼えばカタツムリでも活餌になり、ヘビを飼えばカマキリも活餌になってしまいます。
このせつなさややるせなさこそが肉食動物飼育の持つ大きな意味であり、かわいいかわいいだけでは終わらない大切な要素を持つ飼育であると思います。
人間界の中にいる生き物が単にペットではなく、自然界の一片を見せてくれる対象にもなり得るのであれば、飼育は観察であり、観察は飼育になります。
観察から生じた生物間相違は対策を生み、生物間類似は愛を生みます。
そしてどんどん深みにはまっていくと、コオロギを通販で買うようになりますw